人類史家(シカ)人類の言語が「いつ誕生したか?」というのは、多くの人にとって興味の対象です。



言語の起源については不明は部分も多くある一方、多くの仮説が提唱されていますね。



今回は、そんな人類の言語の誕生や起源についてみていきます。



人類の言語の起源は、「科学における最難問」のひとつと呼ばれています。これは、石器や骨とは異なり、言葉は化石として残らないためです。しかし近年では、人類学や言語学、遺伝学、脳科学の進歩により、その謎のベールが少しずつ剥がされつつあります。
言語の定義



言語の歴史を考える上で、「そもそも、言語とは何か?」という部分を明確にしておく必要があります。言語の主な定義としては、主に以下の要素が挙げられます。



言語とは、単なる「音」ではなく、「意味を持ち、規則があり、様々な表現ができるツール」ということができますね。



そのとおりです。「音」を出すだけの動物ならイヌやネコ、またはクジラやオウムなど様々な生き物でも可能ですが、上で挙げた要素を満たす「音」、すなわち言語を持っているのはヒトのみです。
言語を可能とする身体的な前提条件



言語の定義は上で挙げたとおりですが、ヒトが言語を駆使するためには必要となる条件があります。



その条件とは、「(a)身体の条件」と「(b)脳の条件」のふたつですね。
▼(a)身体の前提条件…喉の構造と発生能力
人類は直立二足歩行を始めたことで、喉の位置が下がり、咽頭(いんとう)という広い空間が確保されました。これにより、チンパンジーなど他の霊長類には不可能な、多様で複雑な母音・子音の出し分けが可能になりました。また、舌の可動域が広くなり、呼吸制御が高度化したことも要因となりました。
▼(b)脳の前提条件…脳の巨大化と特定領域の発達
単なる「叫び声」を「意味のある構造(文法)」に変えるには、高度な処理能力が必要です。そのため、脳内の以下の領域の発達が必要でした。
・前頭葉、側頭葉:
思考や計画、音の理解を担当する領域です。
・ブローカ野:
言語の産出(話すこと)を担当する領域です。
・ウェルニッケ野:
言語の理解を担当する領域です。これらの領域が発達したことで、音に複雑な意味を持たせることが可能になりました。



これらの身体と脳の変化・発達が、人類の言語の獲得の前提条件になったということですね。



そのとおりです。ただし、人類が言葉を話せるようになるためには、もうひとつの大きな変化が必要でした。それが、「FOXP2(フォックス ピー ツー)遺伝子」です。
FOXP2遺伝子の変異(人類の言語獲得に大きな影響を与えた要因)



FOXP2(Forkhead Box P2)は、「人類の言語能力の進化」を語る上で最も有名な遺伝子のひとつですが、実態はかなり奥深く、誤解も多いテーマです。



しばしば「言語遺伝子」というキャッチーな名前で呼ばれることもありますが、実際には「他の遺伝子の働きを制御する司令塔(転写因子)」としての役割を持つタンパク質を作る遺伝子ですね。



ええ。主に脳や発声に関わる神経回路の形成に関与しており、「言語そのもの」ではなく、“言語に必要な能力の基盤”を作る遺伝子です。



人間のFOXP2は、チンパンジーやゴリラと比べてわずか2ヶ所のアミノ酸変異があり、このたった2ヶ所の変化が重要だと考えられています。
【言語進化におけるFOXP2遺伝子の位置づけ】
①発声の精密化:音のコントロール
②学習能力の向上:模倣・発音習得
③文法処理の基盤:シーケンス(時系列)処理
言語はいつ誕生したか



「言語がいつ誕生したか」という時期・起源に関しては、180万年~20万年前にホモ・エレクトゥスが登場した頃と考えられています。ただし、この時代は160万年ほどの期間があり、初期と後期とでその度合いが異なると考えが一般的です。
(関連記事:人類の誕生・起源と700万年の進化の歴史 > 180万年~20万年前:ホモ・エレクトゥスの登場)



様々な学説がありますが、おおよその仮説をまとめると以下のようになります。
神話や虚構・空想を語りだす「認知革命」





人類の言語の「誕生・起源」という意味では、ここまで見てきたように180万年~20万年前が開始といえますが、この当時は簡単な文法や単純な過去・現在・未来が話せる程度でした。



現在の人類の場合、さらに神話や虚構・空想といった物語も考え、語ることができますね。



それができるようになったのが、今から約7万年前に起きたといわれる、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが主張する「認知革命」です。
Q.ユヴァル・ノア・ハラリが主張する「認知革命」とは?
・神話・宗教・伝説をつくり、共有できる。
・存在しないもの(国家・組織・貨幣の価値・神・ルール)を信じられる。
・大規模な協力(数百〜数万人規模)ができる。
すなわち、単なる言語ではなく、「虚構を共有する能力」を身に付けた出来事を指します。
この認知革命により、今の人類と同様の能力を獲得したと考えられています。



「なぜ7万年だったのか?」という点については完全には解明されていませんが、「言語の複雑化」「社会規模の拡大」「脳の進化」などが仮説として挙げられています。



この「虚構を信じる力」が、その後の農耕社会や国家の誕生に繋がっていくことになります。



